2005年05月14日

ニューマミヤ6

 このカメラについては悔しい思い出がある。人生いろいろ悩むこともあるけど、最初に感じた直感は大事だよ、という教訓話だ。

 もう12年くらい前だろうか。それまで35mm判のニコンしか持っていなかったのだが、カメラ屋で中古のニューマミヤ6を見た途端、今までに中判なんか興味もなかったくせになぜか電撃的に欲しくなり、気がつけばその場でローンの手続きを始めていた。ボディ1台とレンズ3本(50、75,150)。望遠 150だけが新品であとは中古だったと思うが、全部で23〜4万円したと思う。まだ飲食店のバイトだけで食ってた貧乏時代である。当時の月収の倍近い、とんでもない借金だった。

 植田正治とかメープルソープとか、正方形画面をよく使う人の写真が好きだったのだ。それを自分でも唐突に撮ってみたくなった。ブローニーフィルムの装填の仕方も知らなかったのによくそんな買い物ができたものだと思う。
 その後の借金返済の苦労については語るまい。苦労した分そのカメラには特別の思い入れを持って大事に使った、という話になればその苦労も報われるのだが・・・そう、報われなかったのである。

 まず、真四角という画面が素人には難しすぎた上に、それまでレンジファインダーのカメラを使ったことなどなかったもんだから「寄れない」ということが最大のネックになった。写真を始めたばかりの人が一度は通過する、引いて奇麗な絵を作れないためにやみくもに寄って構図もクソもない迫力の写真ばかり撮ってしまう・・・僕もおそらくそういう時期だったのだろう。写真とはそういうものだと思っていた。そういう「寄ってなんぼ」の写真が、レンジファインダーでは撮れないのだ。最短撮影距離1m ! そんなの、隣の檻にあるバナナじゃねーか。

 同じ頃、僕の買ったニューマミヤ6を見て「お、それいいな。俺のも探してきてくれんか?」と父親が同じカメラを欲しがった。別の店で広角レンズ1本だけついたセットを買って渡すとそれを持ってどこか外国の山へ旅行に出かけ、なかなか美しい雪山の写真を撮ってきた。山や風景を撮るのに最短撮影距離などどうでもいいわけである。

 ・・・そうか、このカメラはこういう用途に使うのか。でも僕は山の写真を撮るわけじゃないからなぁ。風景向きのカメラ買ったから風景を撮ろう、ってわけにもいかんしなぁ。
 同じカメラを父子で買って、先に買った息子の僕が使い道がなくて困っているわけである。なんか馬鹿みたいな話。父親には僕のを売りつければよかったんだな、ほんと。

 結局、使いこなせないまま棚の上でホコリをかぶることが多くなり、使わないカメラのために借金だけ払う日々が続いた。そして借金完済後数年して、やはりほとんど使わずじまいのまま、買ったカメラ店で8万円で引き取ってもらった。手元にあった3〜4年ほどの間に、おそらく10本くらいしかフィルムを通していない。本当に無駄な買い物だった。

 ここで話は終わらない。

 ここ数年のレンジファインダー・ブームで僕もベッサLから足を掬われ、そのままベッサR2、そしてとうとうライカにも手を出した。ベッサやライカをとことん使ってみると、レンジファインダーの不便だと思っていた部分が思ってもみなかった緊張感を生み出したり、寄れないことがかえって違う視点からものを見る訓練になったり、一眼レフのうるさいシャッター音では決して撮れなかった写真が撮れたりと、ようやく僕もレンジファインダーカメラの素晴らしさに目覚めたのである。
 そうなってみると思い出すのは、あの売ってしまったニューマミヤ6だ。
 あのカメラはやっぱりすごいカメラだったのではないだろうか。最初に店で感じた電撃は間違いじゃなかったのでは。
 

 父親に電話すると、最近はデジカメばかりでマミヤはほとんど使っていないという。じゃぁ貸してくれ、というわけで何年かぶりで手に取ったニューマミヤ6は、レンジファインダーの良さをちゃんと知っている今の僕に、まさに二度目の電撃を与えた。
 田中ナントカ先生が「6×6判のライカ」と呼んでいたのを思い出す。まさにその通り。ライカとは違って電子式のレンズシャッターだが、その静かなことはライカ以上。ファインダーの出来も素晴らしい! 

 何本か、借りたその日に写して歩いた。翌日ラボから上がってきたXP2を見て唸った。50ミリレンズの描写も、本当に繊細で素晴らしい。こんなに奇麗なレンズだったっけ?
 僕はこんなすごいカメラを売ってしまったのか? 馬鹿じゃないのか!?

 そう、馬鹿だったのである。浅はかだったのである。愚かだったのである。もうなんとでも言っとくれ。

 夢中になって1ヶ月間、ニューマミヤ6ばかりで写真を撮りまくった。去年の夏のことである。陽の長い夕方、仕事が終わってから日が沈むまでの1時間、毎日120フィルムを1本消費して歩く。熱暑の夕方も、この軽いカメラならそんなに負担にならない。
 20本撮ったところで打ち止めにして、その中から40コマ選んでエプソンのプリンターで写真集を作った。『35℃』とタイトルをつけたその自家製本写真集は、今でも頻繁に自分で見返すほど気に入っている。

 あれから父親も「返せ」とは言ってこないので、それをいいことに私物化しているのだが、そうなると広角だけじゃなく標準75mmも欲しくなってくる。ところが標準レンズつきボディというのはたまに中古市場に出てくるけれども、標準レンズだけというのはなかなかない。
 かえすがえす、売らずにフルセット持っていたらなぁと後悔しきりなのだが、売らずに持っていれば結局いつまでも使わなかったかもしれないし、レンズがもう一本あったら、逆に去年の夏のような緊密な撮影は出来なかったかもしれない。

 はじめて出会った時、直感的にこれはすごいカメラだと思った。で、その直感は正しかったわけだが、それが正しいと知るためには一度手放さなくてはならなかったのだ。なんて、古くさい恋愛小説みたいな出会いと別れと再会を経て、ニューマミヤ6は今日も(父親に返されることなく)働いているのでした。

new mamiya6b.jpg


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posted by カマウチヒデキ at 00:39| Comment(7) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年05月10日

ライカ落下日記 1

 ライカを落とした! しかも走行中の自転車から。

 思い出しただけでぞっとする光景。自分で作った革製ストラップでタスキがけにライカを下げて自転車に乗っていた。急に肩に軽い摩擦を感じて、今まで肩に感じていた重力がスッと抜けたと思うと、背後でゴン、と鈍い音がした。

 自転車を止めて振り返ると、僕の視界の下隅方で、その物体はまだゴロゴロ転がっている。そして歩道の隅の金網の根元にようやく止まったその物体は、どう考えても、いや考えたくはなかったのだが、残念ながら考えるまでもなく、さっきまで僕の脇の下にぶら下がっていたライカM4なのだった。

 ライカがコンクリートの上に落下したのである。
 え?
 もう一回。
 ライカがコンクリートの上に落下したのである。
 嘘。
 いや、嘘じゃなくてね。
 走行中の自転車の上からである。まだ運動を止めていないそれを、僕はちゃんとこの目で見たのだ。見たこともない光景だ。ていうか見たくもない、普通は人生の予定にはない光景だ。でも見てしまった!
 
 ライカはショックに弱い。そんなことは知識として知っている。しかし、衝撃でレンジファインダーの部品がずれて視界が真っ暗になった、といった事故症例記事は、たいていライカM3のファインダーがいかに精密に出来たものかという話とセットで語られる。そう、弱いのはM3のファインダーなのである。幸い、僕の前方3mの路上に転がる鈍銀色の物体はライカM4という、M3よりは精密でない、つまり頑丈なはずのカメラである。

 色々なことが頭に浮かんだ。
昔、同じレンジファインダー機のキヤノン7というカメラを、腰の高さのカメラバッグからコンクリート上にダイブさせたことがある。今回と同じようにキヤノン7は数メートル路上を何回かバウンドして止まった。拾い上げてみると巻き上げレバーがバカになっており、回転させることができなかった。

 ・・・路上のライカに向かって歩きながら、そのときのことを克明に思い出してみる。

 キヤノン7の動かない巻き上げレバーに暗澹たる気持ちになり、入れたばかりだったフィルムを裏ブタを開けて無理やり抜き、チャージ途中のようにズレたシャッター幕を眺めながら、なかばヤケになって力ずくで巻き上げレバーを巻こうとした。グググッと異常な抵抗があったが、ある時点から急に何かが外れるように巻き上げレバーは回転し、シャッター幕も通常の位置に戻った。数回巻き上げてはシャッターを切ることを繰り返すと、キヤノン7は何事もなかったかのように、少なくとも見かけ上は治ってしまった。
 あれ以後、テスト撮影をしてみたが、距離計の狂いもなく、巻き上げ動作にも何の支障もなく今に至っている。その時についた数カ所のへこみがその落下事故の唯一の記念。
 キヤノン7、恐るべき頑健カメラなのだっだ。

 今、目の前に転がっているライカM4は、まぁなんと言うか、キヤノン7の異国の従兄弟みたいなもので(時期的にはキヤノン7の方が少し古い)、同じ頑健さを期待できるはずだ。
 いや待て、もう一つあったぞ。
 ニコンF4を脚立の上から路上に落下させて擦り傷だけですんだこともあったじゃないか。あんな重い、しかも電子部品だらけのカメラが助かったのである。有力な証言者が二人も揃ったのである。そうだ、ライカは大丈夫!

 ここまで考えたところで、路上のライカにたどり着いてしまった。ストラップが片方リングごと外れ、だらんとみっともなく片側にうねっている。金具が少し緩み気味だったことは知っていた。でもまさか抜けるなんて! 二重リングの緩んだ切れ目に吊り金具の縁が乗り上げることはあるだろう。しかしそこから落下するためには乗り上げた後360°回転しなきゃならない。自転車の振動でゆっくりゆっくり360°回ったのか? そんなこと、偶然でも起きるものか? 
 文句を言っても仕方ない。現に目の前で起きてしまっている。
 
 拾い上げてみる。接眼部の黒いリングがヤスリで削ったように傷つき、塗装が剥げているのが見える。フィルムカウンター横のエッジもへこんでいる。底ブタにも同様のへこみ。レンズは見た所無傷でフードも傷ついてない。ボディの角だけ使って転がったようだ。
 ヘコミなんかはこの際どうでもいいのである。ボコボコになってもライカはライカだ。もともとの使い方もけっこう荒っぽかった。大事に磨いて飾るために買ったカメラではない。ちゃんと使えれば、ちゃんと写ればそれでいい。それ以上は何も求めない。
 だから神様!

 ファインダーを覗いてみる。
 「・・・・・?」
 何だ? 見慣れない光景が。思わず目を離す。
 意味が分からない。今見えたのは何なのだ? 
 もう一度覗く。真っ暗な画面のフチに白い枠線がくっきりと浮かび、その中央に極小の四角い窓が開いている。その極小窓を通して見えているのは、何? 青空か?
 黒、白、青の、なんだか美しい幾何学図案に見とれること数秒。やっとそれが本来明るいファインダー上に浮かぶべきブライトフレームと距離計像であることがわかった。

295.jpg

 (↑模式図)

 そう、これが噂には聞いていた「ライカ落としたらファインダー真っ暗」の、正真正銘の実物なのだった。信じられないことに。
 衝撃でファインダー光路上の何かの部品が落ちたのだろう。前から見ても後ろから見てもファインダー窓は真っ暗なのである。故障は故障でも、まさに最悪の故障。茫然自失。
 巻き上げてシャッターを切ってみる。動く。シャッター速度を変えて何枚も切る。シャッター系はどうやら大丈夫。1秒は1秒だし、15分の1秒と30分の1秒のバウンド音も前のまま。チャッ、という小さな音も変わってない。
 フィルムを入れたままだったので、現像したら何枚もブレた路面が写っていることだろう。それを見たら泣きそうだ。いや、今だって泣きそうなんだが。

 とにもかくにも、ファインダーをやられてしまったわけである。どうにかしなければならない。買った当初、ブライトフレーム切り替えレバーの調整をしてもらった神戸元町の修理屋さんに電話をしてみると、百戦錬磨の彼もライカのファインダーを治したことは今まで4回しかなく、しかもすべてM3だったので、 M4は「やってみないとわからない」とのこと。
 インターネットで関東の修理屋さんや、ライカ本社での修理の記事を探ってみると、「重修理」扱いは作業料5〜6万円プラス部品代、というのが標準的で、ファインダーブロック丸ごとM4-2タイプ(M4オリジナルの部品はもうないのだ)のものに換えると15万円近くかかっている事例が出てきた。15万円って! このカメラ20万円で買ったんだよ。20万円のカメラに15万円の修理代? 冗談じゃねー。

 選択肢はいくつあるのか?
 (1)いくらかかってもしかたがない。修理をする。
 (2)もし15万円なんて金額を言われてしまったら、それ以下の値段で買える、たとえばM4-2あたりの機種を買ってしまう。
 (3)ファインダーいかれても撮影機能は無事なようだから、広角レンズ専用の目測カメラ(超高級ベッサL)として使う、つまりこのまま修理はしない。
 
 まず、(2)の「別のライカを買う」という選択は、ちょっと辛い。
 買うときには大して重要ではなかったのだけれども、1年使ううちに(そう、まだ1年と2ヶ月しかたってない!)重みを増してきたのが、このM4は僕と同じ 1967年製、同い年だという事実である。本来僕はそういう「生まれ年のライカ」のような過剰な思い入れをカメラに塗ったくるようなことは好きではないのはずなのだが、はじめて買ったこのライカM4が思いのほか手になじみ、毎日使い続けるうちに、大げさではなく本当に体の一部になったかのように愛着もわき出した。別に1967年でなくてもライカならそうなったのだろうが、運の悪いことに?(一応ちゃんとわかってて買ったのだが)同い年だったために、もうこのライカじゃないと駄目なような錯覚に陥っている。錯覚って、ちゃんとわかってるんだけどね。でもそういう思い入れって、わかってても簡単に捨てられなかったりするし。

 さぁ、修理見積もり、いくらと出るか。・・・怖くて持っていけないよう。
                      (05.03.02)
           
286.jpg
(落下の瞬間をM4が写した決定的瞬間。左の黒い影が自転車で走り去る僕の背中ではないかと思われる)


ライカ落下日記2


             

     



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2005年05月09日

ライカ落下日記 2

 神戸西元町の修理屋さんにM4を持ち込む。修理屋先生、ファインダーを覗いて「あー、バルサム外れてますなぁ」と、わりと淡々と。「メーカーに出したらプリズムごと交換するから、ごっつうお金とられますしね。まぁ、やってみなわかりませんけど、うまいこといったらええんですけどなぁ」
 なにとぞよろしく、とお願いして、店を出ました。忙しい人なので仕上がりは3月末になる模様。
                   (05.03.03)
                           

 神戸Kカメラより電話。実に淡々と、「無理です」と告げられる。
 無理です? なんですと? 無理ってことは何? このライカは死ぬっていうこと? 電話を切ったあと、遅れてやってくる衝撃。ええええ!?
 いきなり大ヒットベタベタ純愛映画の台詞を叫びたくなる・・・助けてください! (歌ってくれ平井堅!)

 数分たって落ち着いたとき、これからのライカのない生活を想像していた。
 あれほど毎日持ち歩いたカメラである。最初の一年間というもの、365日中300日は「彼」と一緒だった。ライカを女性に比す人が多いが、どちらか性別をつけるなら僕のライカは絶対男である。なぜって? 何でだろう。パートナーというよりは同志、という感じなのかな。
しかしM4を落下させた日は3月1日なのだが、その前半月ほど、実はあまり彼の出番がなかった。年末に買ったゼンザブロニカS2が至極気に入り、平日は M4、土日はブロニカというローテーションが今年に入ってから定着していたのだが、この半月ほどはちょっと集中してブロニカモードに入っていたのだった。

 なくてはならない相棒のような気がしていたが、実際半月ほど「彼」なしで過ごせていたわけである。「ライカなしでどうしたらいいんだ〜!」なんていうのは思い込みじゃないのか。単純に高価なカメラであるから、実際以上の思い入れを塗ったくってるだけじゃないのか。高いのは事実だが、はたしてライカはそんなに特別なカメラなのか。

 ライカの凄いところとは一体何だろうか。ファインダー? M4のファインダーはたしかに素晴らしいが、国産ベッサR2のファインダーだって実は負けていないくらいよく出来ている。上下像の切れなんかM4よりクリアかもしれない。逆光にもM4同様強い。ということは、M4-2以降M6TTLまでの機種(逆光に弱いとされる)よりベッサR2のファインダーの方が上ということである。

 ライカがベッサに勝っている部分は、作動音の小ささやシャッターと巻き上げレバーの感触、といった部分と、距離計が至近70cmから連動するということ(ベッサR2は90cm)、そんなところである。有効基線長が短いことを欠点とする人もいるだろうが、僕は望遠レンズは使わないし、高価な大口径レンズを持っているわけでもないのであまり関係がない。

 シャッターがうるさい、感触が粗雑、至近距離が長い、というベッサR2の欠点は、実はもう一台持っているレンジファインダー機、キヤノン7がほぼクリアしている。ライカに匹敵する静かなシャッター音。巻き上げは粗雑だが、シャッター自体の感触は悪くない。基線長も長くファインダー倍率も高い。デザインはたしかに良くないが(セレン式露出計の受光部が前面にしゃしゃり出て不細工)、カメラのデザインで写真が良くなるわけでもないと自分を言い聞かせている。

 キヤノン7の欠点は、ファインダーが実像式ではなく虚像式であることである。二重像でのピント合わせは倍率も高く合わせやすいが、上下像でのピント合わせが不可能なのだ。これはライカやベッサに比べて手痛いマイナスポイントである。
 あと、ストラップを取り付ける位置が悪くて、普通に下げるとカメラが上を向いてしまう。ベッサも同じだったのだが、別売りのサイドグリップを取り付けることで解消しているから、これもキヤノン7だけの弱点だ(裏蓋が開かずフィルムを底から交換するライカは、裏蓋開閉の装置をサイドに付ける必要がないため、カメラが傾かない最適の位置に吊り金具を付けることができた。これはライカのかなり大きな優位点だ)。

 音のうるさいベッサとファインダーで一歩譲るキヤノン7。この「あと一歩」のカメラたちが、一応僕の手元に残っている。個々のカメラは「あと一歩」かもしれないが、ベッサとキヤノン、2台合わせればなんとかライカに対抗できる、という考え方もある。
 M4に使っていたレンズは2本あって、35mm、50mmともにコシナ・フォクトレンダーの製品。50mm F2.5はM4よりファインダー倍率の高いキヤノン7に付ければ、(虚像式という部分だけ我慢しなければならないが)かなり使い心地は良いはずだし、 35mm F1.7は最短撮影距離がもともと90cmなので、ベッサの距離計連動距離の弱点は問題がなくなる。うるさいシャッターは我慢しよう。縦走り金属シャッターの利点を堪能すればよい(2000分の1秒が使える、つまり絞りが1段余計に開けられるということ)。

 なんだ、ライカなんかなくたってどうにかなるじゃないか。

 ライカはもういらない。本気でそう決意した。
 もともと僕はそういうブランド嫌いの人間だったはず。ベッサR2の素晴らしさを忘れてしまったのか? 大体、ライカなんかどうして買ったのかと考えると、まずはベッサR2でレンジファインダーの素晴らしさを初めて知ったのであって、ベッサでもすごいのに、みんなが口を揃えて「ベッサどころじゃない」というライカとは一体どんなカメラなんだ、という興味から話は始まったのだ。
 実際ライカは素晴らしいカメラだったが、その一方で生来ブランド嫌いの主流嫌い、意固地なくらい傍流支持を通してきたそれまでの自分に照らして、ある種王道カメラであるライカを所有し、使っているということ自体がくすぐったく居心地悪く、ずっと「そぐわない」とも感じていた。というか、こんな王道カメラにどんどんはまり込んで行く自分が少し嫌いだった。何か違うよな。

 そうだ、俺はもともとベッサな男なのだった。何がライカだ。神様が「こらこら、それはお前の役割じゃない」と二重リングを外してくれたのだ。俺にはベッサとキヤノン7と吉野善三郎のブロニカがある! ライカなんぞ使っていたこの1年2ヶ月が間違いだったのだ。

                     (05.03.17)


 ライカはいらない。もう修理しない。諦める。

 そう決意した。そしてM4のない写真生活を思い描こうとした。
ここ2年間というものベッサ、ライカとレンジファインダー機ばかり使ってきたのだが、昨年末にブロニカを買ってから、6×6というフォーマットの特殊性もあるけれども、それ以上に「久々の一眼レフ」ということが妙に楽しく、ブロニカばかり持ち出すようになった。 
 あれから棚に置きさらしだったニコンのMF一眼レフなんかも持ち出して使ってみた。目でピントを追い込むという快感に久々に浸った。ライカとは全然違う「目の官能」というものが一眼レフにはある。

 大丈夫。ライカがなくても写真は楽しい。あまりにライカばかり使っていたので自分は写真が好きなのかライカが好きなのか、よくわからなくなることすらあったのだが、ブロニカでもニコンでも、ちゃんと写真は楽しかったので安心した。
 ライカなしでも大丈夫だ。

 そう決意はしたのだが、どうやら100%の達観ではなかったようなのだ。数%の未練が、東京のカメラ修理店のホームページをクリックさせていた。駄目で元々、と考えて、症状を説明したメールを送ってみた。

 返事が来た。「治せます。M4純正部品で。オーバーホール込みで10万6050円」

 ・・・あっさりと揺らぐ決意。
気がつくと緩衝材にくるんだM4を段ボール箱に詰め、宅配便の伝票を書いていた。10万円・・・! 10万円で治るって!? 10万円でライカが戻ってくるのか!? 安いもんじゃねーか! だって10万円でM4買えないよ!? 

 何か間違ってるかな、俺。
                     (05.03.19)


ライカ落下日記3


posted by カマウチヒデキ at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年05月08日

ライカ落下日記 3

銀塩感材の値段が上がってきている。僕がいつも買っているコニカミノルタの業務用400ネガフィルムも今月から十数パーセント値上げになるらしい。
 先月はヨドバシカメラでイルフォードXP2の大値上げに遭遇した。今までブローニー1本280円で買ってたのに、いきなり510円! 店員さんに「値札貼り間違えてますよ」と思わず注進したほどだ。いきなり倍近く上げるか? もう買わんでいいよ、という意味なのか?。

(*イルフォードXP2・・・カラー現像機で現像できるモノクロフィルム)

 仕方なく何年ぶりかでミクロファインだとかフジフィックスだとか買ってきてチャパチャパ台所で現像してます。いやぁ、やっぱり基本はこれだよね。XP2 なんて邪道だよ邪道、なんて、今までさんざんお世話になったフィルムの悪口をいいながら、今日もダークバックの中でフィルムを巻く。

 で、今日同僚のM君が、コニカネガの値上げの話にかぶせて「ライカ、今のうちに売ったほうがいいかも」なんて話をするわけですよ。このまま感材の値上げが続けば、いつまでも銀塩機材で撮っていられなくなる。フィルムあってのライカやハッセル、感材が手に入らなくなったらただのかさばる金属の箱、二束三文のくず鉄に成り下がってしまう。たしかに売るなら今のうちかもね。

 なんだか寂しい話だよなぁ、と感慨にふけりつつ、売るも売らないも、僕のライカM4はまだ東京ハヤタカメララボから修理が上がって来ないわけで、売ろうかなぁ、なんて言ってるM君のズミクロン50などを手のひらに弄びながら、いいなこのレンズ、売るなら俺買おうかな、いやいや、修理代10万円かかるのにどこからそんな金出てくるんだ、云々、云々、といろいろ考えているときに、目の前の仕事用Macにメールが来た。

「カマウチ様

 ハヤタカメララボの根本です。おあずかりしておりますライカM4の修理が完了いたしました。ファインダーは完全に復活しております。

 修理費用はお見積もり通り、会員登録費用と消費税を含め¥106,050です。ゆうパックでご返送いたしますが、送料は¥800です。なお送料着払いでも結構です。
 以下の弊社口座にお振り込みいただけますか。ご入金を確認し次第、お送りいたします。到着時刻の指定がございましたら、ご指示ください。」

・・・・おおお!
「ファインダーは完全に復活しております」
なんと美しいお言葉! 

カンゼンニフッカツシテオリマス! 

おお美しい響き! さぁみんなで声を揃えて言ってみよう。

カンゼンニフッカツシテオリマス!(拍手!)

 デジカメが何だ! 感材の値上げが何だ! 銀塩万歳! 

ライカが帰ってくるぞ〜!


                    (2005.5.20)



 で、5月25日です。外の仕事から帰って来たら、会社に届いてましたよ、ゆうパックの箱が。ふふふ。2ヶ月ぶりの再会ですね、M4さん! welcome back!

 ファインダー、完全に元通り! すごい! 1/125秒あたりのシャッター速度で幕走方向に感じていた大きなショックもとれてる。オーバーホールしたてのライカって、触るのはじめてだ。
 スコン、スコンと軽やかなシャッター。完全に復活しているファインダー。ああ、涙出そう。

 しかしファインダーの再蒸着って、凄いことするなぁハヤタカメララボさん。よくよく考えてみたら、ハヤタカメララボの根本泰人さんて、よく『写真工業』とかに記事書いてる人だよねぇ。この前なんかWEBの『デジカメWatch』でニコンのデジカメのレポート記事書いておられた。ライカからデジカメまで何でもこいなのか・・・すげ〜!


 ハヤタカメララボの根本さん、小林さん、本当にありがとうございました。一生大事に使います! 大事にと言っても、なでてさすってしても仕方ないので、明日からバリバリ働いてもらいます! 

もう落としません!(誓)

でも、まぁ、何かのはずみで。またやっちゃったら、根本さん、小林さん、よろしくお願いしま〜す。

                    (2005.5.25)


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